ジングルベルは、もう鳴らない
「僕、彼女と同期なんですよ。でも、多分認識すらされてない。彼女は、高嶺の花ですし。声を掛けてみたくても、それもなかなかできません」
「なるほど……」
「そうしたら最近、樹里さんと仲が良いらしい話をチラッと耳にして。でも話してるのすら見たことがないし、って思ってたんです。そうしたら昼間、アカリって言ったから。確認したくなって」
「そうだったの。会社では確かに、あまり話さないかな。少し前からなんだけどね。二人でよく出掛けたりしてて」


 いいなぁ、と大樹がニヤニヤし始めた。恋をしているな、と微笑ましく眺める。こんな淡い色の恋なんて、触れたのはいつぶりだろう。自分のそれだって、もう随分と前のこと。周りの友人は既婚ばかりだし、何だか新鮮だった。


「もし一緒にいる時に彼女に会ったら、名乗ってもいいですか」
「うんうん、いいよ。でも、まぁその時はさぁ。私がちゃんと紹介するよ」
「本当ですか」


 また目を輝かせる青年は、嬉しそうにハイボールを流し込む。その速度にヒヤヒヤしながら微笑み返した。自分で恋をしなくたって、誰かの恋を応援することはできる。そういうことに触れられるのは、幸せなことだ。

 ふと、千裕の指輪がチラつく。ピンク色の可愛らしい気持ちを、苛立ちと悲しさが覆おうとするのだ。私だって幸せになってやる。樹里は強く思った。
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