ジングルベルは、もう鳴らない
「樹里さん。美食部からの情報ってどうなんですか」
「あぁ、そうねぇ。カレー屋は色々貰ってる。その他は蕎麦屋が多いかな。被ってるのもあるから、そうなると隠れているか(・・・・・・)が微妙になるけど」
「そこですよね。僕、蔵前にできた新しい店に行ってみたんです。でも、ちょっと商品化に向かないなぁって。樹里さんは、プライベートでは食べてませんか」
「プライベートでカレー、ねぇ」


 そう言われて思い出すのは、千裕と別れたあの日のカレーだった。あの店のキーマカレーはとても美味しかった。今食べても同じ感想を持てるかは分からないが、そう思っている。あぁあの店はどうだろうか。別の事情で封印された日の思い出だったが、それとこれとは別の話だ。


「ちょっと待って、ある」
「え?」
「あった。美味しかった、カレー」


 あの店は、シェアレストランと言っていたはずだ。まだ、あそこに出ているだろうか。慌てて、朱莉にメッセージを送る。


『朱莉。あの時のカレー屋さんって、まだあそこに出てる?』


 キーマカレーならば、商品化には問題ない。大事なのは味だ。何とか思い出そうとして、記憶を辿る。外で大泣きをしたあの日。奥さんがプリンをくれたあの日。思い出したくないところが多過ぎて、頭を左右に振った。
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