ジングルベルは、もう鳴らない
「樹里さん?」
「あぁごめん。前にね。朱莉と食べたキーマが美味しかったなって思い出して」
「あ、朱莉さん」


 大樹の顔がぱぁっと明るくなる。会えたら紹介してあげると言ったものの、なかなかその機会には恵まれていない。折角、恋の相談をされたというのに、それを考えてあげる余裕すらなかった。今度、飲みにでも誘ってみようか。

 時計はすぐに震えた。流石、朱莉である。


『あの店ねぇ、最近見ないんだよね』
『美味しかったよね』
『どこかにお店出したのかなぁ』
『あそこには、もう来てないと思う』


 返信は、期待には沿わないものだった。店の名も覚えていない。朱莉にも聞いたが、彼女も覚えていないらしい。手掛かりは、おぼろげな記憶の中の手書きのメニュー。そこに描かれていた《《少し不細工な象》》だけだった。
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