ジングルベルは、もう鳴らない
「よろしくお願いします」
「あぁ……いえ」


 あの香澄があまりに丁寧に言うから、樹里は一瞬戸惑った。体は大切にね、とでも言えばいいのか。でもそれは、女としての意地が言わせない。こうして余裕のあるフリをするのが精一杯。不安で一杯な胸は、奥の奥に仕舞うしかなかった。


「樹里、本当にごめんなさい。でも聞いてくれて、ありがとう」


 涙を拭いた香澄が、チラリと樹里の首元に視線を寄越す。そして、少しだけ、ほんの少しだけ……笑った気がした。
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