ジングルベルは、もう鳴らない
「何も、ない」
「え? 何ですか。その間」
「煩いな。もう。よし、もう今日は仕事はお終い」
「あ、了解っすぅ」
ニヤニヤした口元で、大樹がそう言う。ギロッと睨んでみても、今は何も通じない。彼はもう、樹里に《《いいこと》》があったと思っているのだ。反論する力もない。はぁ、と判りやすく肩を落とした。
ブンタが隣室に住んでいると分かったのは、先週のこと。あの人の名前が、斎藤と知ったのも。樹里はあれから、あの時のほくほくとした温かさの正体を探していた。近しいのは、朱莉と仲良くなった時のような感情だと思う。決して、恋などではない。それは分かっているのに、何かスッと落ちて来なかった。もう一度、彼に会えれば分かるだろうか。そう思い始めて隣の扉を気にしているが、未だ彼には会えていない。
「樹里さん。恋だって認めるのも一つですよ」
「何言ってんの」
「いや、何かその表情の変わり方。恋してる人でしたよ?」
「はぁ?」
わざと大きな声を出して、自分の気持ちも一緒に蹴散らした。今、必死になるのは仕事だけでいい。やるからには、成果をあげたい。恋をしている場合じゃないのだ。千裕が結婚しようと何しようと、もう関係はない。確かに年齢のことを考えたら、悠長にしている場合でもないだろう。分かっている。けれど、そんなことで仕事に支障が出るのは御免だった。
「え? 何ですか。その間」
「煩いな。もう。よし、もう今日は仕事はお終い」
「あ、了解っすぅ」
ニヤニヤした口元で、大樹がそう言う。ギロッと睨んでみても、今は何も通じない。彼はもう、樹里に《《いいこと》》があったと思っているのだ。反論する力もない。はぁ、と判りやすく肩を落とした。
ブンタが隣室に住んでいると分かったのは、先週のこと。あの人の名前が、斎藤と知ったのも。樹里はあれから、あの時のほくほくとした温かさの正体を探していた。近しいのは、朱莉と仲良くなった時のような感情だと思う。決して、恋などではない。それは分かっているのに、何かスッと落ちて来なかった。もう一度、彼に会えれば分かるだろうか。そう思い始めて隣の扉を気にしているが、未だ彼には会えていない。
「樹里さん。恋だって認めるのも一つですよ」
「何言ってんの」
「いや、何かその表情の変わり方。恋してる人でしたよ?」
「はぁ?」
わざと大きな声を出して、自分の気持ちも一緒に蹴散らした。今、必死になるのは仕事だけでいい。やるからには、成果をあげたい。恋をしている場合じゃないのだ。千裕が結婚しようと何しようと、もう関係はない。確かに年齢のことを考えたら、悠長にしている場合でもないだろう。分かっている。けれど、そんなことで仕事に支障が出るのは御免だった。