ジングルベルは、もう鳴らない
「では、本当にすみません。よろしくお願いします。最低限で大丈夫なので。ブンタ。パパお出掛けするから、いい子に留守番してるんだぞ。お姉さんの言うこと、ちゃんと聞いてな」


 そう言われてブンタは、とりあえず尻尾を振った。だが、斎藤が玄関に向かうと、徐々にそれが萎んでいく。きっと、飼い主の微妙な変化を感じ取っているのだろう。そんなブンタを撫でながら、樹里も玄関に向かう。ゲートを閉め、ブーツを履き、鍵の束をポケットに入れる。樹里は、それをぼんやりと見ていた。ヘルメットを抱えた彼は、いつになく強張った顔をしている。


「大丈夫です。何の保証もないけれど……きっと大丈夫です。だから気を付けて行ってくださいね」
「えぇ、ありがとう。よろしくお願いします」


 斎藤は深々と頭を下げて、部屋を後にした。ブンタはその背を見送ると、寂しそうにクゥンと鳴く。部屋に残った一人と一匹。さて、これからどう過ごすか。
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