ジングルベルは、もう鳴らない
「あぁ、ずっとここに居てくれたんですね。ごめんなさい。こんなよく知りもしないおじさんの部屋に」
「いいんです。ブンタが心配で、居座ってしまったのは私ですから。こんな格好でお恥ずかしい。すぐ片付けますね」


 出したままのポットに手を伸ばし、トートバッグに突っ込む。全て片付いてから、ようやく身なりが気になった。頭をぺたぺたと触って、髪型が変になっていないことにホッとする。散歩に出た時にある程度は整えたから、まぁ大丈夫だろう。ご飯を食べ終えたブンタは、伸びをしながら近付いてくると、満足気に樹里の隣に横たわった。


「いろいろ大変でしたね」
「まぁ兄貴たちもいたし。元々、三男はマスコットみたいなものなんだよね。意見を言っても、どうせ兄貴たちは聞く気もない。細かいことは、兄貴のお嫁さんたちが動いてくれてさ。本当に何にも役に立たなくて、一人で色んな説明書き読んじゃったよ」
「説明書き、ですか」
「そ。ICUに入れるのは何親等まで、とか。事実婚のパートナーの治療方針の参加? とか。病院のあちこちにあった案内読み漁っちゃった」
「でも、お母さんは嬉しかったんじゃないですか。息子さんたちが、すぐに駆けつけてくれるって」


 だといいけど、と斎藤は苦笑する。

 彼には、兄が二人いる三男ようだ。男三兄弟ということだろう。ちなみに、樹里には兄が一人がいる。特別仲がいいわけでもなければ、悪いわけでもない。男ばかりの兄弟の関係性は、ちょっと想像できなかった。
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