バレンタインと恋の魔法
にっと無邪気に笑った流くんに、懐かしい気持ちが込み上がってくる。


…そうだ。流くんはいつも大人っぽいのに、ゲームをしている時だけは子どもみたいに夢中になって負けず嫌いで、そんな流くんも大好きだった。



久しぶりに流くんと並んでやるゲームは、時間を忘れるほど楽しかった。


この時だけは自分が流くんとまるで同い年になったような、そんな気分になれる。



「…あ、そろそろ母さんが帰ってくるって。そっかもうこんな時間だったんだ」



通知の来たスマホを手に取った流くんが、ふと呟いた。


時計を見てみると、いつの間にか五時まであと十五分となっていた。



…またしばらく流くんとは会えなくなる。



「あのね、流くん。これ、まだ一日早いんだけどバレンタイン」



カバンの中から綺麗にラッピングをした袋を取り出す。



「え、ありがとう。そういえばもうそんな時期だったのか。毎年ありがとうね」


「ううん、今年はちょっと違うんだ。開けてみて」



流くんは不思議そうにきょとんと首を傾げてから、丁寧にラッピングの袋を開けていく。



「…バウムクーヘン?俺が好きだからこれにしてくれたの?作るの大変だったんじゃない…?」


「割と簡単に作れたよ。バームクーヘンにした理由はそれもあるんだけどね、お菓子にはお菓子言葉っていうのがあって、バウムクーヘンには『長い年月を共に過ごしていく』って意味があるの」
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