バレンタインと恋の魔法
あれ、なんだろう…。なんだかいつもの姫宮さんと雰囲気が違うような…。



「あ、驚いた?こっちが素の私なんだー。いつもは男子に好かれたいから可愛こぶってんの」


「あ、そうなんだ…」


「そのおかげで女子からは嫌われてるんだけどね」



お弁当箱を広げながら姫宮さんがぽつりと呟いた。



「まあ私も裏でぐちぐち言うような女子といるよりは男子といる方が楽でいいんだけど。それに今は、少しでも瀬名くんに可愛いって思ってもらえるように頑張ってるの。好きな人のために頑張るってすごい楽しいんだよ」



姫宮さんがブラウンのアイコンを入れた大きな目で私を真っ直ぐ見つめてきた。



「朝比奈さんは、瀬名くんが好きなわけじゃないんだよね?」



それはまるで最後の確認だよ、と言っているかのような眼差しだった。



「…好きじゃ、ないよ」



姫宮さんの瞳が一瞬だけ揺れ、でもすぐににこっと笑顔が張り付けられた。



「そ。ならよかった」



…どうしてだろう。こんなに胸がチクチクと痛むのは。


姫宮さんの瞳を真っ直ぐ見返せないのは。



私にはまだ、それがなんなのかわからなかった。
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