バレンタインと恋の魔法
「どうしたの朝比奈さん、何かされた?」


「う、ううん…っ、違うの…っ。それに最初にぶつかっちゃったのも私で…」



どうしてこんなに涙が出るのかわからなかった。


だけど瀬名くんが助けてくれた。来てくれた。それだけでさっきまで苦しかった胸の痛みが、驚くほどすっきりとなくなっていた。



「…ねえ朝比奈さん」



溢れて止まらない私の涙をそっとセーターの袖で拭ってくれた瀬名くんを見上げる。


瀬名くんは眉を下げて少し迷った表情をしてから、私を真っ直ぐ見つめてきた。



「バレンタイン、ほんのチョコ一粒とかでもいいからさ、俺にくれないかな…?」


「…え?」



予想もしていなかったことに、掠れた声がかすかに出る。



「ほんとあまりものでいいっていうか…うん。朝比奈さんから、もらいたいんだ」



…どうして。


顔を真っ赤にさせている瀬名くんがわからなくて、頭の中をはてなが埋めつくす。



だってこんなのまるで…。…いや、でも瀬名くんには…。


混乱する頭の中でただ一つだけわかったことは、明日姫宮さんと話さないといけないということ。


私は、姫宮さんに嘘をついてしまったから。
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