バレンタインと恋の魔法
てっきり二人きりだと思い、どこにする?と聞こうとしたタイミングでいつからいたのか後ろから出てきた久遠にぴくっと頰が引きつる。



「悪いな、二人きりじゃなくて」


「ううん、別に?久遠くんがいてもぜーんぜん平気だよっ」



空気読め、と目で訴えかけるが、久遠はふっと嫌味ったらしく笑うだけ。


あいつ、絶対面白がってる…!



「…あれ、朝比奈さん!朝比奈さんも食堂なの?珍しいね」



なるべくカロリー少なめのものを頼もうとメニュー表をじっと眺めていると、隣にいたはずの瀬名くんが一人の女子生徒のところに駆け寄って行った。



「お弁当忘れちゃって…」


「そうなんだ。一人?」


「ううん、杏ちゃんが飲み物買いに行ってるから、それ待ってる」



朝比奈さんがナチュラルな上目遣いで瀬名くんをちらりと見てから、すぐに眩しそうに顔を伏せた。


朝比奈さんは人見知りなのか教室でも特定の子としか喋っているのを見たことがない。



…なのになぜかあの二人、仲良さそうだ。



「あれ、姫宮さん決めた?」



友達の来た朝比奈さんとわかれて、こちらに戻ってきた瀬名くんは余韻からかにっこにこの笑顔だった。


まるで、嬉しいことがあった子どものような…。
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