バレンタインと恋の魔法
「…ごめん、私用事あったの思い出しちゃった。久遠くんと二人で食べて?」



今これ以上瀬名くんといてはいけないと本能が告げていた。


不思議そうな瀬名くんに精一杯笑顔を貼り付けて、背を向ける。



ずっと一部始終を見ていたのか、少し離れたところで購買の袋を持ったままこちらを見ていた久遠と目が合う。


なんでも見透かしてしまいそうなその瞳から慌てて逃げるように食堂を出る。



屋上の扉の前まで来て、階段に腰かける。



「きっつ…」



それは誰が見たって一目でわかる光景だった。



好きな人には好きな人がいた。


話しただけであんな風に幸せそうに笑う瀬名くん、初めて見た。



「…何してんだよ」



ハッと顔を上げると、メロンパンを頬張りながら久遠が階段を登ってきているところだった。



「…いや、そっちこそ何してんの」



なぜか久遠の顔を見ただけで、苦しかった胸が少しだけ楽になった気がした。



「…煌斗がクラスのやつに捕まって、騒がしかったから静かそうなとこ来ただけ」
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