バレンタインと恋の魔法
ふと久遠の笑顔を見たのは初めてだ、と頭の片隅で思った。





「瀬名くん、放課後遊びに行こ」


「いいね。暇なやつ誘ってみんなで行こうよ。おーい、今日の放課後暇な人ー!」



瀬名くんの言葉にクラスメイトがわらわらと集まってきた。


二人きり、という意味だったのに、どうやら瀬名くんには伝わらなかったようだ。



「ねえ朝比奈さんも来ない?」



チラリと後ろを振り返ると、瀬名くんが帰ろうとしていた朝比奈さんにどこか緊張した横顔で声をかけていた。


あ、また私の知らない瀬名くんだ、と思いながら、それ以上二人を見ていたら落ち込む気がして教室を出る。



「…邪魔しねぇの?このままじゃ朝比奈さんまで来るぞ」



さりげなく隣に来た久遠に、前を向いたまま「別に」と小さな声で答える。



「…別にそこまで性格腐ってないし。それにクラス会なんだから、特に何か起きたりなんてしないでしょ」





「朝比奈さんなんか歌う?」



…なんでこんなことに。



隣で私のことなんて見向きもしないで朝比奈さんに体ごと向けている瀬名くんに、沸々と嫉妬心が湧き上がってくる。


朝比奈さんの性格上端っこに座ると思っていたから、瀬名くんを真ん中に誘導したのに瀬名くんは朝比奈さんの手を離そうとしなかった。
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