バレンタインと恋の魔法
「天馬って一個上の天馬琥太郎(こたろう)先輩のこと?」



帰る支度をしていた隣の女子が、私の言葉に反応して顔を傾げてきた。



「天馬琥太郎?」


「うん。その人有名だよ。毎日どっかしら怪我してて、夜とか怖い人たちと歩いてるとこ見たって人が何人もいるんだ。いわゆる不良少年。怒らせたらすぐ殴ってくるから、みんな怖がっちゃって近づく人とかいないんだって」


「そうなんだ…」



…そんな悪い人には、見えなかったのにな。



「杏ちゃん、その人がどうかしたの?」


「あ、ううん!ちょっと気になっただけ!それより、カフェ行くんでしょ。早く行こ」



不思議そうにしている翠の背中を押して、教室を出た。





翠とできたばかりのカフェで他愛もないことを話していると、あっという間に三時間が経った。


駅まで翠を送って、踵を返して家までの道を歩く。



「…ん?」



明るい繁華街を歩くガラの悪いグループの中に、見知った制服の後ろ姿を見つける。



「あ、天馬せん…」


「いって」
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