バレンタインと恋の魔法
そんなことを願いながら、必死に涙を堪えていた時だった。



「…何してんの?」


「ああ?んだよ、ガキは引っ込んでろよ」



ハッと顔を上げると、そこにいたのは私を庇うようにして立っている天馬先輩だった。



「…ああ、コーヒーがかかっただけかよ。んなことで女相手に大声出してんじゃねぇよ」



コーヒーの染みを見て察したのか、ポケットに手を突っ込んだまま先輩がぎろりと鋭く男の人を睨みつけた。



「な、おまえに関係ないだろ!」


「おーっと、おにーさん。うちの大事な琥太郎に手出そうなんて一億年早いよ?」


「ほら。クリーニング代やるから、さっさと去れ?」


「それとも…俺らが相手してあげようか?」



天馬先輩に腕を振り下ろした男の人を止めたのは、さっき先輩と一緒にいたガラの悪い三人組の男の人達だった。


千円札を二枚手渡された大学生の男の人は、さーっと顔を青くすると慌てて逃げていった。



「けっ。弱っちい男だな。俺たち見て逃げるとか」


「そんな怖い顔してねぇのに」



いかにもヤクザものの漫画に出てきそうないかつい三人組をぽかーんと見つめていると、しゃがみ込んだ天馬先輩に顔を覗き込まれた。



「おい、大丈夫か?」
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