嫌われ毒婦の白い結婚 のはずが、最強幻獣騎士様の溺愛が始まりました⁉
そんなある日、イラリアから予想外の言葉を掛けられた。
「お前はずっと、わたくしの近衛騎士でいることを許すわ」
イラリアは喜べとばかりに、ひざまずくアドルフを見下ろす。
(まずいな)
アドルフはあと半年もすれば、リーゼロッテとの結婚のために近衛騎士の職を辞する予定だ。ここで「ありがたきお言葉」と返せば、辞めるときにイラリアの不興をかう恐れがある。どう返事するべきか迷い、真実だけを話したほうがいいと判断した。
「私には婚約者がおり、ゆくゆくは彼女の家を継ぐため騎士の職を辞するつもりです」
俯き加減にそう答えると、「今なんと?」と不機嫌な声が下りてくる。
(対応を間違えたか?)
背筋にツーッと冷たいものが流れるのを感じる。イラリアは一言「気に入らないわ」と言った。
親しくしていたイラリア付きの侍女が手に大やけどを負ったのはそれから程なくした頃だった。
どうしたのかと聞いても、曖昧に笑うだけで答えようとしない。それに、以前なら遊びに誘えば付いてきたのに、それも断られるようになった。
さらに、親しくしている他の侍女まで頻繁に怪我をするようになり、アドルフに対してよそよそしくなった。
「ねえ、アドルフ。知っている? リーゼロッテ様がわたくしの侍女に酷いことをしているの。どうやら、あなたと親しくしていることに嫉妬しているの。それに、あなたがいない寂しさを癒すために複数の男性と遊んでいるらしいわ」