嫌われ毒婦の白い結婚 のはずが、最強幻獣騎士様の溺愛が始まりました⁉
(旦那様?)
銀色の兜の隙間から艶やかな黒髪がのぞいた長身の男性は、その場にいるだけで周囲を圧倒するような迫力があった。乗っているのは鷹の頭と獅子の体を持つ幻獣──グリフォンで、ヒッポグリフよりも一回り大きい。
「リーゼロッテ様、旦那様ですよ。旦那様は毎回優勝するので、今年からは優勝者とだけ対戦することになったんです」
アイリスがリーゼロッテに耳打ちする。
「優勝者とだけ対戦?」
リーゼロッテは聞き返す。
「はい。対戦相手は幻獣騎士団で最強と言われる団長のカルロ様です」
「幻獣騎士団で最強……」
アイリスの言葉を聞き、リーゼロッテは胸の前でぎゅっと手を握る。そんな強い人と戦うなんて、怪我をしてしまわないだろうかと心配になる。
試合開始の合図とともに、両者が空に飛び立つ。カキンという音がして剣がぶつかったと思ったら次の瞬間には距離が離れており、目で追うのがやっとだ。
ふいに、テオドールの乗るグリフォンが雄たけびを上げる。観客席にいてもびりびりと振動を感じるほどの迫力に、一斉に周囲の木々で羽を休めていた鳥が飛び立ち、カルロの乗っているヒッポグリフは怯えるように後あとずさった。
「前へ!」
カルロは手綱を引き、自身のヒッポグリフを前に進めようとする。しかし、テオドールはその隙を見逃さなかった。一瞬で間合いを詰めると、カルロの腹に鋭い一撃を繰り出す。