嫌われ毒婦の白い結婚 のはずが、最強幻獣騎士様の溺愛が始まりました⁉
執務室の本棚に入れっぱなしになっていた二年前の報告書には、リーゼロッテは嫉妬深く婚約者と親しくするメイド達に嫌がらせをする悪女かつ、不特定の男性と親密な関係を持つ毒婦であると書かれていた。
つまり、ふたつの調査報告書には真逆のことが書かれている。
(同じ人物に対しての調査でここまで情報が逆になることなどあり得るのか?)
二年前の調査は王室から急に縁談を持って来られてとにかく時間がなく、調査期間は数日に限られていた。それに対し、今回はすでに一カ月近い時間をかけてリーゼロッテと実際に親しくしていた人物達と接触を図り、話を聞き出している。
調査日数の違いで表面的な噂しか収拾できなかったという理由は考えられるものの、それにしたってあまりにも情報が違いすぎる。
「俺としては、今回の報告書のほうがしっくり来るな。商工会の会長も間男ではなかったんだろ?」
「ああ」
「周囲にも聞いてみたが、誰ひとり奥様といい仲になっている奴はおろか、誘惑された奴がいるという噂も一切聞かないぞ。あんな美人に誘われたら、あいつらが黙っていられるはずがない。絶対に自慢するはずだから間違いない」
カルロは腕を組んだままうんうんと頷く。
(誘惑された噂は一切聞かない、か)
テオドールの脳裏にリーゼロッテが来た日のことが蘇る。リーゼロッテは寝室で、衛兵にしっかりとしがみついていた。実際にテオドールはあの姿を見て、リーゼロッテが間違いなく毒婦だと判断した。
(あれは一体どういう状況だったんだ?)
そのとき、先日獣舎でリーゼロッテと交わした会話を思い出した。
寝室に蛇が出て、外にいた衛兵に助けてもらったと。