嫌われ毒婦の白い結婚 のはずが、最強幻獣騎士様の溺愛が始まりました⁉
『お父様、前々から例の方になかなかよい相手がいないと悩まれていたでしょう? 今日いらしていたみたいですけれど、お相手はもう見つかっておられるのですか?』
わざとらしく、イラリアは尋ねる。
『いや、まだのようだ』
テオドールは二十二歳のとき、一度結婚している。相手は大して目立ちもしない、子爵令嬢だ。その女は不正をした挙句に事故死したので内密に処理したのだが、一部の連中がテオドールを『血に塗られた辺境伯』などと言い出した。そのため、婚約者捜しが難航していたのだ。
『まあ! では、わたくしがここに来た甲斐がございます。オーバン公爵令嬢が、打ってつけなのではないかと』
イラリアは朗らかに微笑む。
(オーバン公爵令嬢だと?)
その提案を聞き、まさに打ってつけだと思った。
オーバン公爵家の令嬢であるリーゼロッテ=オーバンは、才色兼備の淑女であるともっぱらの評判だった。何度か公式の場で会った彼女は事実としてしっかりしていて、凛とした美しさがある。
リーゼロッテの性格を考えれば、彼女は王命を断らない。そして、彼女であればテオドールも気に入るだろうと確信した。
『それは名案だ』
有能な幻獣騎士の子供が親と同じく有能な幻獣騎士になる確率が高いことは、統計的にわかっている。テオドールがいつまでも結婚せずに子を儲けないのは、国家としての損失だ。
その点、リーゼロッテはテオドールの相手として申し分ない。