嫌われ毒婦の白い結婚 のはずが、最強幻獣騎士様の溺愛が始まりました⁉
 イラリアがラフォン領に一週間も滞在する理由。それは、血に塗られた辺境伯に嫁いだ女がきちんと不幸になっているかを確認し、自分の優位性を知らしめるためだ。

 怒りで手が震えそうになる。すると、テオドールがリーゼロッテを自然に抱き寄せた。

(テオドール様……)

 テオドールはリーゼロッテと目が合うと、優しく微笑む。

「リーゼロッテ、知り合いか? こちらの方を紹介してもらっても?」

 本当は誰だがわかっているくせに、皮肉たっぷりにそう言う態度に思わず笑ってしまいそうになる。

「はい。こちらはラット伯爵家の次男──アドルフ様です。昔の知り合いですわ」

 昔の、と言うところを強調したことに気づかれたかもしれないが、別に構わない。だって、リーゼロッテにとってアドルフはもう過去の人で、関わる気もないから。

「ご無沙汰しております、ラット卿。お変わりなくお過ごしでしたか?」

 リーゼロッテのどこまでも他人行儀な挨拶に、アドルフの眉がぴくりと動く。

「ああ、リーゼロッテ。きみも元気にしていたかい」

 にこりと微笑むときの優しげな雰囲気はあの頃となんら変わらない。けれど、王女に唆されて平然と人を陥れるような人であることを、リーゼロッテは知っている。

「ラット卿」

 そのとき、テオドールの低い声が響いた。

「リーゼロッテは俺の妻だ。どういう関係か知らないが、軽々しく名前を呼ばないでほしい」
「……っ、これは失礼しました。気を害したなら謝罪しましょう。ラフォン閣下」
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