嫌われ毒婦の白い結婚 のはずが、最強幻獣騎士様の溺愛が始まりました⁉
(アドルフ様はいいけど、テオドール様は嫌……)
ここで歯向かえばイラリアの心証を悪くする。リーゼロッテのすべき行動は「もちろんです」と笑って席を譲り、最後までにこにこと相槌を打つことだ。
頭ではそうわかっているのに、心が追い付かない。
「リーゼロッテ。ここに来い」
テオドールが立ち尽くしているリーゼロッテを呼ぶ。彼がぽんぽんと叩いたのは、彼の隣──イラリアの反対側の席だった。
「え? でもそこは──」
本来別の人が座る席だ。
「いいから」
おずおずと言われた席に座ると、テーブルの下で手を握られた。大丈夫、と言ってくれていると感じ、不安感が急激に薄れてゆく。
「テオドール様とリーゼロッテ様は随分と仲がよろしいのね」
イラリアはふたりの顔を見比べ、目を眇める。
「ええ、このような良縁を結ぶきっかけをくださった陛下には心から感謝しています」
テオドールは満面の笑みを浮かべ、リーゼロッテの肩を抱き寄せた。
その瞬間、イラリアに明確な悪意を持った視線で睨まれゾクッと寒気がした。まるで蛇に睨まれるかのような感覚で、恐怖心が込み上げる。
そんな緊迫した空気を壊したのは、イラリアに同行した外務大臣だった。