嫌われ毒婦の白い結婚 のはずが、最強幻獣騎士様の溺愛が始まりました⁉

 ──血に塗られた辺境伯。

 それは、テオドールの別称だ。こう呼ばれるのには、いざ前線に出ると鬼神のごとく容赦ない戦いぶりを見せ全身が返り血で血まみれになるというほかに、もうひとつ理由があった。

 テオドール=ラフォンは一度結婚している。だが、その花嫁を『気に入らない』というだけの理由で初夜に惨殺し、遺体を窓から投げ捨てたのだ。

 さらには、女癖が悪く娼館通いをしており、平民の女を含め手当たり次第に手を出しているという話も聞いたことがある。それも彼の悪評を酷くする一因だった。

 このせいでテオドールに娘を嫁がせようとする名門貴族はおらず、今も独身で婚約者もいないままだと記憶している。だが、イスタール王室としては代々優秀な幻獣騎士を輩出するラフォン辺境伯家の当主でがいつまでも結婚せずに世継ぎをもうけないことは、看過できないのだろう。

「やはり、このような仕打ちは納得いかない。私がもう一度──」

 オーバン公爵がダンッと執務机を手で叩き、すっくと立ちあがる。

「お待ちください!」

 リーゼロッテは慌ててオーバン公爵を制止する。
 この縁談は、間違いなくイラリアの差し金だろう。婚約破棄させるだけでは満足できず、リーゼロッテを物理的に隔離し、あわよくば血に塗られた辺境伯の手でこの世から存在ごと消し去ってしまいたいとでも思っているのだろう。

「王室がお膳立てした縁談を断れば、オーバン公爵家とて無傷では済みません」
「だが──」
「お父様もご存じの通り、わたくしはもう良縁が見込めません。ラフォン辺境伯家は家格で言えば公爵家に次ぐ高位であるだけでなく、広大な領地と強力な軍を擁しております。当主のテオドール様はまだ二十五歳の世界最強の幻獣騎士。条件面で言えば、またとない良縁です」

 オーバン公爵は眉間に深いしわを寄せる。その好条件を覆すくらい悪い噂もあると言いたいのだろう。
< 22 / 198 >

この作品をシェア

pagetop