嫌われ毒婦の白い結婚 のはずが、最強幻獣騎士様の溺愛が始まりました⁉
辺境伯というテオドールの立場上、この屋敷には国交や軍事に関するたくさんの機密事項が保管されている。さらに、万が一の有事の際は国を最前線で守る拠点になる。そのため、不測の事態に備えてテオドールはリーゼロッテの近く──部屋の前に護衛を置くように指示した。
しかし、その護衛が見たらないのだ。
部屋のドアは五センチ程度、開きっぱなしになっていた。テオドールはその隙間から中の様子を窺い、そっとドアを開く。
「誰もいないのか?」
こんな夕暮れ時に護衛を連れて散歩にでも行ったのだろうかと思いかけたそのとき、部屋の奥から話し声が聞こえた。
(寝室か?)
寝室へと繋がるドアも少し開いているのに気づき、テオドールはそちらに近づく。今度は若い女の声がはっきりと聞こえた。
「ああ。最悪の気分だわ。あなたがいてくれて本当によかった」
ハッとしたテオドールは壁に背中を合わせるように身を隠し、ドアの隙間からそっと寝室を覗く。そこには、長身の若い護衛と女がいた。女は後姿しか見えないが、赤みがかった美しい金髪をハーフアップにしてドレスを着ている。
(彼女がリーゼロッテか?)
この部屋にいるからには彼女がリーゼロッテであることは間違いがないだろう。あろうことか、リーゼロッテは護衛の男の腕に自ら手を伸ばして絡みついていた。