嫌われ毒婦の白い結婚 のはずが、最強幻獣騎士様の溺愛が始まりました⁉
「お願いよ? 絶対に連れてきてね?」

 セドリックは逡巡するような表情を見せたが、最終的には「かしこまりました」とお辞儀をした。

「奥様。奥様は旦那様と話し合いをするべきです。おふたりが共に未来を歩むことだって──」
「セドリック。わたくしが嫁いできた初日にそれを拒否したのは旦那様のほうよ? それに、二年もあったのに一度もあっていないなんて夫婦と言える? わたくし達は、すでに破綻しているのよ。いいえ、最初から何もなかったのだわ」

 リーゼロッテの発言を聞き、セドリックは言葉を詰まらせた。テオドールとリーゼロッテが書面一枚だけで成り立っている張りぼての夫婦関係であることを、彼は誰よりもよく知っている。

「でも、安心して。話し合いはするわ。それで、ふたりに最善の道を決めるから」

 ただ、話し合うまでもなく、テオドールはリーゼロッテの提案に同意するはずだ。

「それであれば、よろしいのですが」

 セドリックはなおも何かを言いたげだったが、結局何も言わなかった。セドリックが退室し、リーゼロッテは部屋にひとりきりになる。

(いよいよ、今日ね)

 リーゼロッテは自分自身に喝を入れるように、胸の前でぎゅっと拳を握る。

 リーゼロッテが夫であるテオドールと結婚して、今日で二年。そして、この〝二年〟という月日はイスタールの貴族にとって、特別な意味を持つ。
 イスタールの貴族の婚姻について定めた『国内貴族婚姻法』で定められた、貴族当主が無条件に離婚することができる権利を得る日だ。

(こんなに近くにいるのに、二年間一度も会わないくらいだもの。いらない妻から出て行くことを提案するなんて、旦那様にとっては渡りに船でしょうね)

 リーゼロッテは再三にわたり、テオドールに会いたいとセドリックを通して申し入れた。しかし、彼はそれを徹底的に無視した。
 一度も会ったことがないのに、随分と嫌われたものだ。

(大丈夫。離縁されても、私は上手くやっていける)

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