嫌われ毒婦の白い結婚 のはずが、最強幻獣騎士様の溺愛が始まりました⁉
 初夜をすっぽかされ、その後も一切会いに来ない夫。リーゼロッテは、自分がお飾りの妻にすぎないことにすぐに気がついた。
 だから、いつかこの屋敷を追い出されることを想定して打てる手は打ってきた。町に出て将来の基盤を作り始めると、幸いにして協力者はすぐに表れた。

 だからお金を稼ぐ当てはあるし、今持っているドレスや宝石は全て実家から持参したもの。これらを売れば、リーゼロッテが一人生きていくこともできるはずだ。

(旦那様、会いに来てくださるかしら?)

 一番の問題は、テオドールに会えるかどうかだ。手紙でも用件を伝えることはできるが、大事な話なのでできれば顔を合わせて直接伝えたい。

 窓の外を見ると、いつの間にか空は夕焼けに染まっている。リーゼロッテは部屋からオレンジ色に染まる景色を見つめ小さく息を吐いた。

 その晩、リーゼロッテは緊張の面持ちでテオドールを待った。
 テオドールが来てくれるかどうかは半々だろうと思っていた。部屋の隅に置かれた時計の音がやけに大きく聞こえるのは、これからのことを思って少し緊張しているからかもしれない。

(いらっしゃらないわね……)

 時間だけが過ぎてゆく。夜も遅く既に人払いをしているので、室内は静謐に包まれていた。

(旦那様は最後まで私と会う気はないってことね)

 今日はもう会えないだろうと諦めかけたそのとき、部屋の外で足音がした。こんな時間にここに来ることを許される人間はリーゼロッテの他にはひとりしかいない。

 カチャッと音がしてドアが開く。

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