嫌われ毒婦の白い結婚 のはずが、最強幻獣騎士様の溺愛が始まりました⁉
 そこにいたのは、黒い軍服を身に纏った長身の若い男だった。
 黒髪の間からこちらを見つめる金眼は獲物を狙う凶暴な野獣のようでありながら、まるで宝石のような美しさがある。すっと通った鼻筋、一文字に結ばれた大きめの口、鋭い目……あたかも黒豹を思わせる危険な雰囲気を漂わせた、美しい男だ。

「テオドール様?」
「他に誰か来る男でもいるのか?」

 高圧的な言葉を返され、リーゼロッテは返事せずに「お待ちしておりました」とだけ告げる。ソファーに座るように促すと、テオドールは一番入口に近いソファーに乱暴に座る。

「俺は忙しい。なんの用だ?」

 セドリックにどうしても行くようにと説得されたのだろう。テオドールは不機嫌さを隠さない態度で、リーゼロッテに問う。リーゼロッテは部屋に用意してあったレモン水をテオドールに差し出すと、彼の正面に座った。

 ◇ ◇ ◇

 テオドールの元に、深刻な顔をしたセドリックがやって来たのは今日の昼過ぎのことだった。領地を守る一部の要塞が老朽化していることについての会議に参加してから部屋に戻ると、見計らったように部屋のドアがノックされる。

「旦那様。少しお時間をよろしいでしょうか?」
「少しあとにしてくれないか? 戻ったばかりなんだ」

 テオドールは着ていた上着をソファーに乱暴に投げ捨てながら答える。

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