婚約破棄?   それなら僕が君の手を
 卒業から一週間後、アントンとセイラはケント公爵邸を訪れた。手土産にニオル家の領地でとれるりんごを一箱持参する。
 ピシリと背筋の伸びた執事が二人をサロンに案内する。日当たりの良いサロンは暖かく、窓際のテーブルには青いドレスを着た若い女性と体格の良い男性が座っていた。二人は立ち上がるとアントンとセイラに挨拶をする。
「いらっしゃい。よく来てくれたね。私はケント公爵家三男のジェシーだ。よろしく。」
体格の良い男性はリシェルの兄だ。リシェルと同じ緑の瞳だが髪色は淡いブラウンで、リシェルよりもだいぶ男っぽい。いや、リシェルがそうではないだけで、普通の男性はこうなのだ。ジェシーが軽く騎士の礼をするので、アントンも同じように返す。
「こちらこそお会いできて嬉しいです。私はアントン、こちらは妹のセイラです。」
セイラは目をキラキラさせてジェシーを見つめ、淑女の礼をする。ただ、一緒にいる女性が誰なのか、気になっているようだ。
「ところで、リシェルはまだですか?」
アントンがジェシーとちょっと不機嫌そうな女性を見てそう言うと、ジェシーがぶはっ、と吹き出した。女性はますます不機嫌になる。
「こちらに。」
ジェシーが手のひらを女性に向ける。
『えーーーーーっ!!』
アントンとセイラの声が重なった。
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