婚約破棄?   それなら僕が君の手を

王太子の事情

 翌年、財務省に新人が入ってくると、リシェルの仕事も内容が変わることになる。普通なら外回りをするのだが、何故かリシェルにはその仕事は与えられなかった。
 代わりにリシェルは王太子執務室への出向を言い渡された。以前頼まれていた件を踏まえた仕事をするらしい。極秘だと言っていたがリシェルはいつのまにかそれに巻き込まれていたのである。

 いろんな領地を見て回りたかったな、と思いつつも、対人関係がいまいち不安なリシェルは、外に出て不躾な視線を浴びるよりはいいか、と納得することにした。王太子はリシェルの長兄と学園で同級生で、ジェシーは近衛騎士である。だからなのかリシェルにも気安い感じで接してくれた。

 王太子にはまだ婚約者がいない。
 候補者は何人かいるのだが、絞りきれないらしい。冗談で
「リシェルが女性だったらどんなに楽だったか。」
と、よく言われる。そして護衛についているジェシーに
「リシェルが女性でも殿下には渡しません!」
と返されるのである。リシェルは苦笑するしかなかった。

 銀髪に青い瞳の王太子カイトは令嬢たちの憧れである。夜会では常に微笑みをたたえ国王陛下の隣りに座っている。高位の令嬢と踊る事はあるが、特別扱いはなかった。
 リシェルは苦手なので夜会に参加しないが、夜会でも王太子の護衛をしているジェシーがそう話しているのを聞いていた。長兄と同級生ということは殿下は24歳だ。本当にそろそろ婚約者を決めなければならない。
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