婚約破棄?   それなら僕が君の手を
 ボードン侯爵が出てきて夜会開始が告知された。あんな騒ぎがあっても、夜会はそのまま行われるようだ。

「リシェル様のご存知の令嬢でしたの?」
「小さい頃に会った事があるだけです。向こうは忘れているでしょう。」
相変わらず小声で話しながら、リシェルは周囲を観察していた。

 彼女(ルーナ)に酷いことをした男をそれとなく探してみる。頬が赤くなっていたのはぶたれたからではないだろうか。

 しかし会場にはあの言葉のような怒りを発した人物は見当たらない。先程ぶつかってきた男の横にも小柄な女性がいてお互い笑顔を見せていた。

 不思議に思うが、この場で情報収集できるほどリシェルは社交的ではない。サシャにお願いするのも違う気がして、その夜はモヤモヤが晴れないまま過ぎていった。
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