婚約破棄?   それなら僕が君の手を
 ジョルジュ・ゲイツは王宮での夜会に参加していた。この夜会は表向きは若い世代の交流を目的として開催される、となっているが、対象者達の間では王太子妃を選ぶ為の夜会らしいと、密かに囁かれていた。
 ジョルジュの姉もゲイツ侯爵の指示の下、入念な準備を整えている。夜会が開かれる大きな会場には着飾った若者とその父兄が集まっていた。
「やはり、我が侯爵家より家格の高い家の令嬢はいないようだな。」
父は機嫌が良く、確信している。姉が王太子妃に選ばれる事を微塵も疑っていない。
 ジョルジュも会場を見渡すが、公爵家の令嬢はいなかった。だが、その場に一際目を引く令嬢がいる事に気づく。スラリとした体型に白い肌とふんわりまとめられた金色の髪。白地にグリーンのアクセントが入ったドレスはふわふわと可愛らしい。ジョルジュと同じくらいの年齢だと思うが、学園では見た事がなかった。隣りには年配の男性がいてエスコートしている。よく見ると、周りの男性の視線はほぼ彼女に向けられていた。一目で彼女の見た目が気に入ったジョルジュは即座にその男性達の値踏みをする。
(この場にいる適齢の男性で一番家格の高いのはケント公爵家の三男だが、別の若い女性をエスコートしているから彼女に声はかけないだろう。そうすると、この中では自分が一番か……。)
 ジョルジュの口角が自然と上がっている。隣りにいた姉が
「先日、ボードン家の夜会で一緒だった令嬢はどうしたの?」
と聞いてきたが、ふん、と鼻で笑う。視線の先にいる令嬢と比べたら、どんな女性もかすんでしまうだろう。それくらい美しく可憐な令嬢だが、出自はどこだろうか。

 令嬢を観察しているうちに、王族が入場する時刻になった。国王陛下と王妃陛下の後に、王太子カイトが続いている。カイトには弟がいるがまだ14歳なので、この夜会には参加できない。国民の種々の期待は否が応でもカイトに集中することになった。
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