婚約破棄?   それなら僕が君の手を
 王太子カイトは、目の前でダンスをする女性を見て微笑んでいた。
「リサ嬢、本当に美しくなったね。」
リサ、と呼ばれた女性は口を尖らせて
「あまり嬉しくありません。」
と答える。
「笑顔、笑顔!」
カイトが言うと、リサは笑顔を貼り付ける。それに満足して、カイトも笑顔になるのだった。

 リサとのダンスが終わると、次のダンスを踊って欲しいと令嬢たちがわらわらと寄ってきたが、カイトは女性たちを微笑みで制し自分の近衛であるジェシーのもとに歩いていった。
「ジェシーの正装など、久しぶりに見たよ。美しい人を連れているね。」
その言葉を受け、ジェシーとセイラがカイトに礼をする。
「殿下こそ、先程のお相手はこの世のものとは思えぬ美しさでしたよ。」
ジェシーの言葉にカイトは吹き出してしまった。
「本当に、君達兄弟は……。」
そう言いながら、三人の視線はリサを追っている。ジェシーとカイトはゲイツ侯爵の動きも気にしていた。

 三人から少し離れたところでは令嬢達が熱い視線をカイトに向けていたが、数曲を見送ったカイトは、アントンからの合図を受け取り会場をあとにした。
「ジェシー、侯爵を頼む。」
「御意。」
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