婚約破棄?   それなら僕が君の手を
 テイラー領滞在の最終日。
 リシェルはルーナと共に、再び薔薇農園を訪れた。少し離れたところを女性騎士がついてくる。
「ルーナの母上が王族の血縁者だったなんて、知らなかったよ。」
薔薇の間を歩きながら、リシェルはローズクォーツの印璽について思い出し、ルーナに問いかける。高貴な血統であればあるほどいろいろな事で王国にお伺いを立てる必要がある。
「王族の血縁といっても、もう没落しております。お母様以外には親戚もおりません。お母様はお父様に嫁ぐことができただけで幸せだったと、よく話していました。ですから私たち姉弟に流れている王族の血など、微々たるものなのです。リシェル様の方が、よほど高貴なお血筋です。」
ルーナは、母親の出自に関しては気にしなくても良いというのだろう。
 薔薇が咲き誇る中、リシェルはルーナに対面し、笑顔をむけた。
「では、僕が君の手を取っても良いだろうか?本当はかっこよく『これからも君を守るよ』って言いたいけど……あんまり剣術は得意じゃないし……。」
ルーナは少し考える素振りを見せたあと、ほんのり頬を染めて
「リシェル様は剣術を使わずに私達を守ってくださいました。それって、すごい事だと思います!」
と絶賛してくれた。
リシェルはルーナの両手を取って
「いつか僕がテイラー領の隣りに来るまで待っていてくれる?待たせてしまうかもしれないけれど……。」
と上目遣いでたずねる。
「リシェル様にそんな顔でお願いされては断れません。」
ルーナは笑って
「いつまでもお待ちしております。私も薔薇農園で頑張っていますから。」
と答えてくれた。

 王都に帰ったら、真っ先に父にルーナと婚約させて欲しいとお願いに行こう。旧ゲイツ邸も改修工事をしなくては。

 薔薇農園を手を繋いで歩きながら、護衛騎士が呼びに来るまで、リシェルとルーナはこれからの夢を語り合っていた。
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