政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
明花に向きなおった貴俊が、両手を壁に突いて真っすぐ見下ろす。
その眼差しに、これまでと違う切実さが滲んでいた。
自動で扉が閉まり、静かに下降をはじめたエレベーターの中、彼の肩越しに高層ビル群の夜景が徐々に姿を現していく。
「明花は自己主張しなさ過ぎる。思いを胸に押し込めないで、嫌なら嫌と言ったほうがいい」
雪平の家に入ってからずっと、我慢をあたり前に生きてきた。義母や義姉に咎められるなら、なにも言わないほうがいい。そのほうがずっと傷が浅く済んだから。
そうでなければ、ふたりから激しい罵倒や仕打ちが待っている。
愛人を作り明花を認知したため、強く出られない父にはふたりを止める術はなかった。
貴俊との結婚を決めたときもそう。
照美と佳乃に〝そうしなさい〟と命ぜられれば、従う以外の選択はない。
貴俊が早急に進める結婚も同居話も、彼の言うままに頷いた。
でもそれは、自分の立場が弱いせいばかりではなくて……。
「言わないのなら、このままキスするよ。嫌なら俺を全力で止めろ」