政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
本当に欲しかったもの


四月末からはじまる大型連休を前に、明花は〝桜羽明花〟になった。

左手の薬指にはエンゲージリングに代わり、エターナルリングが眩い光を放つ。それもそのはず。小さいとはいえダイヤモンドが三つも埋め込まれた贅沢なデザインなのだ。

昨日、区役所で婚姻届を提出したあと、貴俊から不意打ちで手渡されたときには驚いた。

貴俊との縁談が持ち上がってからのこの一カ月半、めまぐるしく環境が変わっていく。
式はまだ準備すらはじまっていないが、同居は連休初日からスタートする予定になっている。アパートの部屋はダンボールが積み上がり、動くのにひと苦労だ。

お客様をひとり見送りひと息ついていると、隆子が白い箱を明花の目の前に置いた。洋菓子を連想させる形状の箱だ。


「これ、いただいたの」


隆子によると、懇意にしている水道工事の会社からロールケーキの差し入れだと言う。

箱には有名高級パティスリー『ミレーヌ』と書いてあった。
明花は食べたことはないが、テレビやネットでたまに見聞きする大人気のパティスリーだ。
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