政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

隆子がニコニコしながら箱をカウンターに滑らせる。

貴俊は隆子の言うように今日は休み。特に予定もないと言っていたからマンションにいる可能性は高い。


「ですが仕事中ですし」
「いいのよ。今日はなんだか暇だから。それに、間もなく万智ちゃんも帰ってくる頃だし」


先ほど同様に富一も奥から「行っといで」と声をあげる。

ふたりにそこまで言われて頑なになるのもどうかと思い、明花は言葉に甘え、箱を手にして片野不動産を出た。

ここから地下鉄で二駅。明花は間もなくふたりで暮らしはじめるマンションに到着した。

(もしも不在だったら、メモを残して冷蔵庫に入れて帰ろう)

彼に前もって知らせずに来たのは、なにか予定があったときに邪魔をしたくないためだった。

セキュリティゲートを抜け、玄関の前でインターフォンを押す。鍵は持っているが、まだお客さん気分が抜けない。
すぐに中から反応があった。
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