政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

『明花? どうしたこんな時間に』


驚いた声がインターフォン越しに聞こえたかと思えば、すぐにドアが開く。


「取引先の方からスイーツを――」


顔を出した貴俊を前にして、言葉がぶつ切りになった。
いつもワックスでサイドをしっかり撫でつけている髪は自然に下ろして無造作ヘアだし、黒縁のスクエア眼鏡までかけている。
白いロンTにベージュのストレッチパンツというラフなスタイルも、初めて目にした。


「貴俊さん、目が悪かったんですか?」
「え? あ、そういえば明花の前で眼鏡は初めてか。普段はコンタクトをしてる」
「そうだったんですか」


知り合って一カ月と少し。明花はまだまだ彼をよく知らない。


「とりあえず中に入って」


ドアを大きく開け、貴俊が中に誘う。
< 118 / 281 >

この作品をシェア

pagetop