政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

〝お邪魔します〟と心の中で言いながら足を踏み入れたのは、口に出せば貴俊に〝ここは明花の家だからただいまだ〟と訂正されてしまうから。でも明花はまだすんなりとその言葉が出てこない。


「仕事中じゃ?」
「じつはお取引先様からスイーツをいただきまして」
「スイーツ?」


振り返りつつ、明花の手にしている白い箱に目をやる。


「はい。社長も奥様も今は糖分を控えているみたいで、万智ちゃんは甘い物よりしょっぱい物が好きなので私に回ってきました。奥様が貴俊さんと一緒に食べていらっしゃいって言ってくださって」
「それはうれしいね。こう見えてスイーツは好きなんだ」
「よかった」


貴俊がスイーツを好きか嫌いかまでは考えていなかったが、好物なら心から歓迎してもらえる。


「お休みなのにすみません」
「どうして謝る?」


リビングのテーブルに箱を置いた明花を訝る。
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