政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

「ちょっと待って、経営権はどうなるの?」
「それは私だが、会計監査は入るだろうな」
「えっ……」


照美は言葉を詰まらせた。
雪平ハウジングは親族経営であり、名前だけとはいえ照美も取締役に名前を連ねている。監査と聞いて狼狽するのも無理はないだろう。

明花もこれまで就職先で経理部に在籍した経験があるが、悪事を働いていなくても〝監査〟という言葉には敏感になるし、怖いものだ。


「だけど、どうして桜羽ホールディングスがお父さんの会社を援助する話になったの?」


佳乃の疑問はもっともだと明花も感じた。
そんな大企業が、なぜ中規模の工務店に目をつけたのか。


「うちが売りにしている高断熱工法の仕組みを、グループ企業のハウスメーカーで取り入れたいそうだ」
「うちの企業秘密を教えてしまうの?」
「それに見合うだけの援助はしっかりしてくれるそうだ。なにより倒産の危機を回避できるのは大きいだろう。うちの従業員を路頭に迷わせるわけにはいかない」
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