政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

「ご存じなんですか?」
「秘書室で女の子たちが騒いでいるのを小耳に挟んだ。桜ロールが絶品だとね」
「桜ロール。春っぽくていいですね」


彼の言葉を繰り返す。それではもしかしたら、これがそれだろうか。ネーミングから想像するものに合致する。


「桜あんと桜風味の生クリームを巻き上げたものだとか」
「あんこと生クリームの組み合わせは最高ですよね。私、ミレーヌのケーキを食べるのは初めてなのでうれしいです」
「明花を笑顔にするのは俺よりスイーツのほうか」
「えっ?」
「そんなにいい笑顔は初めて見た」


真横から真っすぐ見つめられて顔の温度が急上昇したため、弾かれたように目を逸らす。


「く、食いしん坊みたいですね」


つくづく恥ずかしい。

動揺を隠そうとケーキを取り出してナイフを手に取ると、唐突に頬に彼の唇が押し当てられた。
動きが止まり目は点になる。
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