政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
貴俊の返事に明花はぱぁっと花が開いたように笑った。
いつか必ず、本当に迎えにいってあげよう。
そう心に誓ったが、それからしばらくして貴俊も不遇に見舞われる。母親がひとりで家を出ていってしまった。『絶対に迎えにくるからね』という言葉を残して。
家庭を顧みない仕事人間の夫に愛想を尽かしたのだ。
ほどなくしてアメリカに住む父方の妹、八重と暮らすべく日本を離れたため、次第に明花との出会いは記憶の彼方へ追いやられていく。
母親に捨てられた過去を忘れたいのもあっただろう。前だけを向き、言葉の通じない国で必死に生きた。
結局、母は貴俊を迎えにこなかった。
正確には、来られなかったと言ったほうが正しいのかもしれない。貴俊がアメリカの高校在学中に病に倒れ命を落としたのだ。
最初からそんなつもりはなかったのか。それとも生活基盤をしっかり整えるまで迎えられないと考えていたのか。今となってはたしかめようもない。
あの約束は、永遠に果たされなくなってしまった。
そのせいなのか、貴俊はどんな些細な約束事にも非常にナーバスになる。