政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

明花と交わした無邪気な約束を不意に思い出したのは、アメリカで経験を積み、桜羽グループを継ぐべく満を持して帰国した頃。貴俊の専属秘書を選考している最中だった。

桜羽ホールディングス本社の人間だけでなく、グループ傘下にも枠を広げ、より有能な秘書を求めて大掛かりな選出が行われていた。

そうして集めた百人近くの身上書の中で、ふと貴俊の目に留まった名前があった。
どこかで見たことのある名前だ。
奥深くに眠っていたなにかが、貴俊の記憶を呼び覚まそうとする。

だが、添付されている顔写真に見覚えはない。

(いや、待てよ。この目……)

どことなく儚げに見える優しい目元を、貴俊は知っている。

(――そうだ。あのときの)

小さな気づきをきっかけに、次々と幼い頃の記憶が蘇った。


『気になる者でもいましたか? その女性はうちのグループ傘下の企業に所属しているようですね』


秘書室長の糸井が書類を覗き込んだ。
身上書には物流会社の名前が記載されている。
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