政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

愛人の娘として表に出ず、目立たずにいてほしいと釘を刺す思惑もあるだろう。


「そうなんだ」
「まさか私に、その人のもとへ嫁げって言うの?」
「佳乃に政略結婚なんてさせられないわ。その苦労なら私が一番よく知っていますから」


佳乃が眉根を寄せて不満をあらわにすれば、照美もそれに続く。最後のひと言は、明花をチラッと横目にした。

秋人と照美は政略結婚である。
当時、照美の実家は内装業を営んでいたが、経営が傾き、地元密着型の工務店として徐々に規模を拡大しつつある雪平ハウジングに助けを求めた。

今は亡き前社長である秋人の父親は、雪平ハウジングで発展途上にあった内装分野の強化に繋がると考え合併を提案。互いの子ども同士の婚姻関係を結ぶことで、より強固な関係を目指したのだ。

照美は〝政略結婚なんてしたから夫に浮気をされ、挙句の果てにはその相手に子どもまで産まれ、認知までさせられた〟と皮肉りたいのだろう。彼女の視線が痛いほどそう言っていた。

明花は立つ瀬がなく、体を小さく丸めるしかない。
秋人もその点については面目なく感じているのだろう、言い返さずぐっと言葉を飲み込んでいる様子だった。
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