政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
『ですが、職をかなり転々としていますね』
糸井が指先で眼鏡のブリッジを上げて指摘する。
『そうだな』
彼の言うように、数カ月単位で入退社が記されていた。短いときには一カ月しか在籍していない職場もある。
『秘書に適性のある優秀な者をピックアップしたつもりですが、経歴に難がある者も混ざってしまったようです。申し訳ありません』
書類の束から弾こうと伸ばした糸井の手を貴俊は制した。
『いや、この女性との面談をセッティングしてくれ』
糸井が激しくまばたきをする。
『問題のある人物のようですけれど……』
『かまわない。できるだけ早く頼む』