政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
単なる同姓同名で、まったく別人の可能性だってある。もしくは貴俊が名前を記憶違いしているかもしれない。
それでもたしかめずにはいられなかった。
『かしこまりました』
一瞬戸惑うように目を泳がせた糸井だったが、すぐに気を取りなおして従った。
ところが面談はすぐに諦めざるを得なくなる。明花はすでに退職したあとだったのだ。
今回の在籍期間は僅か五カ月。いったいなぜ、ここまで短いスパンで職を変えるのだろう。
(よほど堪え性がない人間なのか? それだけの間で、桜羽ホールディングス副社長の秘書にどうかと推薦されるほど有能なのに? これじゃ、まるでなにかから逃げているみたいじゃないか)
ちぐはぐな印象に違和感を覚えずにはいられない。
余計に〝雪平明花〟が気になり、真相をたしかめるために依頼した調査会社の報告で、ふたりは同一人物だとわかった。
それによれば、複雑な事情を抱え幼い頃から義母や義姉から裏で冷遇され、現在もひどい扱いを受けているという。転職を繰り返しているのは、勤め先に彼女を誹謗中傷するメールや電話が頻繁にあるためだとか。