政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

さらに突っ込んだ調査により、その発信者が義母姉だと判明。彼女の行く先々でふたりが嫌がらせを繰り返していたのだ。

当時、公園で泣いていた彼女を思い出し、苦々しいものが込み上げてくる。

義母の気持ちもまったく理解できないわけではない。夫が愛人を作り、その子どもを認知したうえで一緒に暮らすことになったのだから。愛情を注げないのも無理はない。

だが、相手は年端もいかない幼い子。怒りの矛先を向けるべき相手を間違えている。
明花にはなんの非もないのだから。

物心がつく前に実の母を亡くし、あたたかい家庭とは縁遠いところで生きてきた明花を思うと胸が詰まる。

彼女は、今どうしているのだろう。

ひどい生活から抜け出せる日を夢見て、あの日、彼女は貴俊に託したのだ。
そして貴俊は、あのときたしかに頷いた。

彼女はそんな約束など、覚えていないかもしれない。当時十歳だった貴俊でさえ、つい最近まで忘れていたのだから。

(でももしも……。今でもあのときの約束が果たされるのを待っているとしたら?)
< 142 / 281 >

この作品をシェア

pagetop