政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

(ああ、この目だ)


見覚えのある眼差しが、昔と重なる。幼い頃の面影を残したまま、彼女は美しい女性に成長していた。

漠然としたイメージを伝え、明花がそれに見合った部屋をピックアップしていく。


『こちらはいかがですか? あ、でも間取りが合いませんね。ではここなんていかがでしょう』


転職して間もないせいか不慣れで説明不足なところはあるが、なんとか条件に合う部屋を見つけたい、お客様を喜ばせたいといった想いがひしひしと伝わってくる。

きっと親切で真面目な女性なのだろう。

客商売だからお客に真摯に接するのは当然であり、あたり前の対応だが、人間というのはその内面を隠しきれないもの。短い時間であろうと、人格はふとしたところで滲んでしまう。
事実、明花はその眼差しに時折憂いを滲ませる。それはほんの僅かでありほとんどの人は気づきもせず、本人にも自覚はないのだろうが。

桜羽ホールディングスのトップに立つべく、様々な人間と関わってきた貴俊だからこそ察知するのかもしれない。人を見抜く目が自然と養われてきたのだ。
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