政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
義母姉にひどい扱いを受けながら生きてきたのに性格が捻じ曲がることなく、明花は素直に真っすぐ育ったのだろう。
親の愛情を受け何不自由なく生きてきた人たちに囲まれてきた貴俊にとって、これまで出会った経験のない女性だった。
彼女が貴俊を必要としていなければそれでいい。そう考えてここへ来たはずなのに、彼女に強く惹かれる自分がいた。
珍しい存在に対する単なる興味なのか、自己満足の庇護欲なのか。それともこれが愛なのか。
約束を守るためではなく、明花とともに生きていきたい。そのときの貴俊は純粋にそう思った。
そう決意してからの貴俊の行動は早かった。
雪平ハウジングが経営難に陥っていたのは貴俊にとって幸いだったと言っていい。政略結婚なら、明花を強制的にあの家から連れ去れる。明花と愛を育んで結婚する時間が惜しい。
もしかしたらこれは神様が与えてくれた絶好のチャンスなのではないか。
そう思うほど、タイミングの良さに感謝した。
半ば〝約束〟に憑りつかれたかのよう。貴俊は明花との結婚に精力的に向かった。
お見合いで再会したとき、〝ああ、やはり彼女だ。結婚相手は彼女がいい〟と鮮烈に感じたのは、約束とはべつに、明花の内面から溢れるしなやかな美しさに魅了されたからにほかならない。
そしてそれは会う回数を重ねるごとに強くなっていった。
もしも幼い頃に結婚の約束を交わしていなくても、貴俊は明花に惹かれていただろう。
彼女を思い浮かべ、貴俊は薬指に輝く指輪に唇を押しあてた。