政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

それが貴俊のような一流の男性から請われる喜びでないのは、この頃の明花自身も気づきはじめていた。

ゆっくり顔を上げると、貴俊と目が合った。優しく微笑まれ、どう返したらいいのかわからず、ただただ頬を熱くする。

ホテルで初めて顔合わせをしたときには仕事の一環としての結婚といった様子だったのに、会うごとに貴俊の印象はやわらかなものへと変わっていく。
羽毛に包まれるようなあたたかな安心感といおうか。心がとても安らぐ。

その反面、時折注がれる熱を帯びた視線にドキドキさせられるからかなわない。


「は、はい。早速片づけちゃいますね」


理由をこじつけ、彼から目線を逸らした。

引っ越し業者による荷物の運び込みが終わり、広いリビングの隅にはダンボールが積み重ねられている。これまで慎ましく生活してきたため大した数ではないが、開封して収納していくとなるとなかなかの手間だ。


「少しずつ整理していけばいいよ。少し休憩しよう」


ウォークインクローゼットに閉じこもっていると、貴俊が現れた。
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