政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
扉に手を突き、小首を傾げた彼を見ただけで鼓動が跳ねる。
流し目というのか、少し斜めに飛ばした視線には色気まである。
(これからずっと一緒に暮らしていくのに、貴俊さんを見ただけでドキッとするなんてどうしよう。いつか心臓が壊れたりしないかな……)
本気で心配するほど、明花の鼓動は速く刻む。
「はい。それではコーヒーでも淹れましょうか」
手を止めて彼を追い、リビングへ行くといい香りが漂ってきた。テーブルにはカップがふたつ並んでいる。コーヒーだ。
「貴俊さん、淹れてくださったんですか」
「料理は苦手だとミヤにこき下ろされたけど、コーヒーは抜群にうまいのを淹れられる」
そう言えばそうだった。三橋のお祝いに駆けつけたパーティーで美也子や高柳に暴露されたのを思い出す。
思わずふふっと笑うと、貴俊は明花の頬を指先でくすぐった。
「こら、笑うな」
「ごめんなさい」