政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

「失礼します……」


ひと言断り、彼の隣に横になる。貴俊に指導したように足を投げ出し、体をゆっくりカーブさせていく。深い呼吸を静かに繰り返し、反対側も同様にする。

ふたり並んで同じ方向にバナナのポーズをとって曲げ伸ばし。たったそれだけのことなのに、不思議と鼓動は落ち着きを取り戻し、緊張が解れていく。

(あぁ、気持ちいい……)

うっかり初夜のことを忘れそうになったそのとき、起き上がった貴俊に不意打ちで組み伏せられた。頭に添えていた手はベッドに縫い留められたようになる。


「リラックスはもう十分だね」


今の今まではリラックスしていたのに、途端に気持ちが張り詰める。けれど、そんなことはとてもじゃないが言えない。
貴俊の声色にも目元にも、否定を許さない強さがあったから。


「あ、あの、今日からどうぞよろしくお願いします」
「その言葉ならさっきも聞いた」
「そう、ですね。ではその……いい妻になれるようがんばります」
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